同仮名異語の区別

同仮名異語の区別 (Kana Homograph Distinction) #

池田証寿

2025年1月13日~2月11日

はじめに #

和訓「ツク」を例にして同仮名異語の区別を検証する。

和訓「ウゴク」の調査と和訓「ミル」の調査では、『日本国語大辞典 第二版』(以下、日国)の表記欄の検証を重点的に行ってきた。 ここでは観点を少し変えて三巻本『色葉字類抄』(前田本、黒川本、以下、字類抄)を通して名義抄の和訓を検証してみたい。

次の順に和訓「ツク」を例にして同仮名異語の区別を検証してみよう。

  1. 国語辞典での同仮名異語の区別
  2. 名義抄での同仮名異語の区別
  3. 字類抄での同仮名異語の区別

国語辞典 #

ジャパンナレッジ版『日本国語大辞典』の「つく」は次の14項目を立てている。

  1. つく 〔名〕(1)(木菟)(後世は「づく」。→ずく)「みみずく(木菟)」の古名。(2)鳥「みそさざい(鷦鷯)」の異名。(3)鳥「ごいさぎ(五位鷺)」の異名。
  2. つく 〔名〕植物「つくし(土筆)」の女房詞。
  3. つく 〔名〕語義未詳。なるきをいうか。
  4. つく 〔接尾〕(四段型活用)
  5. つく【付・着・就・即・憑】 【一】〔自カ五(四)〕【二】〔他カ四〕【三】〔他カ下二〕
  6. つく【尽】 〔自カ上二〕⇒つきる(尽)
  7. つく【斎】 〔自カ四〕⇒あれつく
  8. つく【月】 【一】〔名〕「つき(月)」をいう、上代東国方言。【二】〔語素〕名詞の上に付いて月の意を表わす。
  9. つく【槻】 【一】〔名〕植物「けやき(欅)」の古名。【二】〔語素〕名詞「つき(槻)」の、他の語に続くときの形。
  10. つく【漬】 【一】〔自カ五(四)〕【二】〔他カ下二〕⇒つける(漬)
  11. つく【突・衝・撞・搗・舂・築・吐】〔他カ五(四)〕
  12. つく【賃】 〔名〕代金。
  13. つく【銑・釚・柄】 〔名〕
  14. つく【束】 [方言]〔名〕⇒つか(束)

ジャパンナレッジ版『日本国語大辞典』の「つぐ」は次の4項目を立てている。

  1. つぐ 〔名〕植物「くろつぐ(黒ー)」の異名。
  2. つぐ【告】 【他ガ下二】⇒つげる(告)
  3. つぐ【継・接・続・次・注】 【一】〔自ガ五(四)〕【二】〔他ガ五(四)〕
  4. つぐ [方言]〔名〕⇒つぐめ(鶫)

ジャパンナレッジ版『角川古語大辞典』の「つく」は次の10項目を立てている。

  1. つく【吐】 〔動詞カ行四段活用〕
  2. つく【土筆】 〔名詞〕 「つくし」の略。女房詞。
  3. つく【尽】 〔動詞カ行上二段活用〕
  4. つく【搗・舂】 〔動詞カ行四段活用〕「つく(突)」と同語源。
  5. つく【月】 〔名詞〕「つき(月)」の母音交替形。
  6. つく【漬】 【一】〔動詞カ行四段活用〕 【二】〔動詞カ行上二段活用〕
  7. つく【着・著・附・付・就・憑】 【一】〔動詞カ行四段活用〕 【二】〔動詞カ行下二段活用〕
  8. つく【突・衝・憧】 〔動詞カ行四段活用〕
  9. つく【築】 〔動詞カ行四段活用〕「つく(突)」と同語源。
  10. つく【釚・弭・柄】 〔名詞〕

ジャパンナレッジ版『角川古語大辞典』の「つぐ」は次の2項目を立てている。

  1. つぐ【告】 〔動詞ガ行下二段活用〕
  2. つぐ【継・続・次・亜・注】 〔動詞ガ行四段活用〕

名義抄での同仮名異語の区別 #

名義抄の和訓データには、 日国IDを付与しているので、これが手がかりになる。

2024年12月11日現在のKRM_wakun.tsvに基づき、 「つく」の日国ID付与をまとめると次のようになる。例数の多い順に挙げる。

例数日国ID日国見出し
60(未記入)
45200202d0fde8FgbEw0eEつ・く 【付・着・就・即・憑】
39200202d103ceAV2d8e9iつ・く 【突・衝・撞・搗・舂・築・吐】
11200202d0ee92ghRyMz4Iつ・きる 【尽・歇・竭】
620020246857ad6e281o0ずく[づく] 【木菟】
3200202d2d36cPvdnkVa7つ・ける 【付・着・就・即】
1200202d107efxFlK0rj9つ・ぐ 【継・接・続・次・注】

「つぐ」の日国ID付与をまとめると次のようになる。

例数日国ID日国見出し
34200202d107efxFlK0rj9つ・ぐ 【継・接・続・次・注】
21200202d2d49aQPvtrrw4つ・げる 【告】
1(未記入)

日国IDを付与できない例が「つく」60例、「つぐ」1例あるので、これらの整理が必要である。 また、日国IDを与えたものでも、入力ミスがないとは言えないので、その点検も必要である。

字類抄の同仮名異語 #

字類抄のツ・辞字では、次のようになっている。注は略す。 字体は、主として佐藤喜代治『色葉字類抄略注』(明治書院、1995年)を参考にして校訂して示す。 校訂した文字は太字で示す。末尾に字数を記した。

  • 付ツク着就輔傳即附䛌戀眼從赴依託属坪副服説嚮矯厲䟽埤麗酉齎秏㧢扔踔跡離原𣴎坘亞嘱㧙封被集懌𩟪孺孺注膠傅觸㢮……54字
  • 次ツク尋續糸紹傅継序詔絢弟武𦂝弈袟纉紉踵繤亞綴緒累莅嘱嗣賃接潰道沈給風抄搆𣕬胤繹襲麗韶紊既賜世鑠𮓪顓……51字
  • ツク推觝摐揰衝築搥鏗鐘撻軼碭適擣突撞城摼磬挺𣫆襲堀亞柱筞杖⿰扌㠯搶……30字
  • 漬ツク……1字
  • 告ツク誥誶風啓諭𦕑謁貢詮赴詔議鞠訊私襲𦧵……19字
  • 舂ツク擣狸摏搗挃揶捶……8字

この他、ツ・動物に次の例がある。

  • 木𪞁ツク又ミツク

佐藤喜代治『色葉字類抄略注』(以下、字類抄略注)は、略注と書名にあるが、和漢の典籍を引用して詳細に考証を加えている。 特に漢籍の引用は、諸橋『大漢和辞典』に用例の掲載のないものや、古写本・古版本に施された古訓も数多く引用している。 使用頻度の高い、いわゆる常用の漢字は取り上げられることがないが、これは佐藤喜代治『字義字訓辞典』(角川書店、1985年)に譲って省略したためである。

字類抄略注の考証の方法 #

字類抄略注では、まず見出しを次のように示す。「付ツク」を例にする。

  • (辞字)付 ツク (以下略)

次に字類抄の漢字を順次取り上げて、それに考証を加える。「付ツク」の場合は、54字のうち 「䛌」から「㢮」まで36字を取り上げている。

「付」「着」「就」「輔」「傳」「即」「附」などの常用字の考証はないが、これは、前述したように 『字義字訓辞典』に取り上げられている。

字類抄略注の考証の例 #

一例として「䛌」「託」「僕」の考証を次に引いてみよう。番号は説明の便宜付した。振り仮名と返点は原文通りの表示が困難なので、振り仮名は()に入れ、返点は省略する。

  1. 「䛌」『白氏文集』巻三十(版本)に「猨苦啼嫌(カコチ)月。鸞嬌(コヒテ)語䛏(ツク)風」。「䛌」はあるいは「䛏」の誤りか。「た」の部、辞字「䛌タカフ」の項参照。
  2. 「託」『名義抄』に「ツク」。『白氏文集』(版本)巻四十に「自強(ツトメテ)自立。以致成人(ヒトトナル)。葢以孤子靡託(ツクコト)。孝友彌敦」。
  3. 「僕」『字鏡集』に「ツク」。

1「䛌」は、出典として漢籍の『白氏文集』を挙げて、誤写の疑いを指摘。「た」の部、辞字「䛌タカフ」の項への参照指示を加える。

2「託」は、『名義抄』に同訓があることを示し、出典として『白氏文集』を挙げる。

3「僕」は、『字鏡集』に同訓があることを示すのみである。字類抄の原文では見出しを「㒒」としているが通行の字体の「僕」に改めている。

字類抄略注の考証の内容はおよそ上述のとおりであるが、これを簡略化して表にして一覧してみよう。名義抄と日国表記欄の収録状況も合わせて示す。

ツク(付) #

字類抄略注「付ツク」の一覧 #

番号漢字略注出典名義抄日国表記備考
1K0100764色葉・名義・和玉・文明・饅頭・ヘボン・言海字義字訓辞典
2K0402783色葉・名義・和玉・文明・天正・易林・書言字義字訓辞典
3K0401923色葉・名義・和玉・文明・饅頭・黒本・易林・書言字義字訓辞典
4#N/A色葉(字義字訓辞典)
5#N/A色葉黒川本「テン」。 (字義字訓辞典)
6K1011011色葉・名義・和玉・文明・易林・書言字義字訓辞典
7K0604641色葉・名義・和玉・文明・易林・書言・言海字義字訓辞典
8白氏文集#N/A#N/A「䛏」の誤りか。
9#N/A#N/A(字義字訓辞典)
10#N/A色葉(字義字訓辞典)
11K0104014色葉・名義・文明(字義字訓辞典)
12#N/A色葉(字義字訓辞典)
13#N/A色葉(字義字訓辞典)
14名義抄、白氏文集K0505041字鏡・色葉・名義・和玉・文明字義字訓辞典
15字鏡集K0100421色葉・名義原文「㒒」。(字義字訓辞典)
16K0709024色葉・名義・和玉・書言字義字訓辞典
17名義抄、爾雅、詩K0606084色葉・名義「抨」の誤りであろう。
18名義抄K0808981色葉・名義字義字訓辞典
19名義抄、文選K0213342色葉・名義・文明字義字訓辞典
20漢書、爾雅#N/A#N/A(字義字訓辞典)
21集韻#N/A色葉・名義字類抄の字体は誤り、今正す。
22字鏡集、広韻K0209232#N/A
23名義抄、漢書、後漢書K0903263色葉・名義(字義字訓辞典)
24名義抄、文選K0710752色葉・名義
25名義抄、詩K0508882色葉・名義疏(疎)と同字。(字義字訓辞典)
26名義抄、広韻K0605371色葉・名義
27名義抄、易K0711182字鏡・色葉・名義・和玉・書言(字義字訓辞典)
28字鏡集、説文#N/A色葉・和玉
29字鏡集、儀礼#N/A#N/A
30名義抄、荀子K0701121色葉・名義
31K0304873色葉・名義
32K0307953色葉
33名義抄、文選K0507833#N/A
34名義抄、字鏡集#N/A色葉字義字訓辞典
35名義抄K0913623色葉・名義(字義字訓辞典)
36字鏡集、漢書#N/A色葉(字義字訓辞典)
37字鏡集、礼記、経典釈文#N/A十巻本「莅」、黒川本は誤り。
38字鏡集、文選#N/A#N/A原文「𣴎」。(字義字訓辞典)
39字鏡集、史記#N/A#N/A原文「坘」。
40#N/A色葉・和玉字義字訓辞典
41#N/A色葉・名義・和玉・書言字義字訓辞典
42名義抄、文選K0306552色葉・名義
43名義抄、医心方、春秋公羊伝K0607843色葉・名義原文「怙」。
44字鏡集、医心方、字義字訓辞典#N/A#N/A(字義字訓辞典)
45名義抄K0614653色葉・名義(字義字訓辞典)
46名義抄、詩K0913582色葉・名義(字義字訓辞典)
47名義抄、詩K0609412色葉・名義
48𩟪名義抄、説文K0810973#N/A
49名義抄、詩K0713381原文「⿰歹𦓔」は「孺」の誤りであろう。
50名義抄、春秋左氏伝、文選、白氏文集#N/A#N/A字義字訓辞典
51字鏡集、荘子、経典釈文、集韻、白氏文集#N/A#N/A
52名義抄、漢書、史記K0102524色葉・名義・和玉
53名義抄、広雅、文選、易K0301123色葉・名義・和玉字義字訓辞典
54名義抄、礼記#N/A色葉・名義

番号欄は、字類抄の掲載順に並べて番号を付した。

漢字欄は、字類抄略注が校訂したものを挙げた。43「封」は印刷の都合で通行字体とした。

略注出典欄は、字類抄略注が例証とした出典文献を挙げた。見出しの漢字に関連する異体字や字形の近い字(形近字)を例証とすることもある。

名義抄欄は、その所在を示す。所在は法中94頁1行2段目をK0609412のように示すもので、HDICで公開しているKRM.tsvと同じである。 収録のないものは#N/Aとした。

日国表記欄は、日国に記載の古辞書の略称をそのまま示した。日国表記欄に収録のないものは#N/Aとした。

備考欄は、『字義字訓辞典』に掲載の有無、 見出しの漢字の正誤の考証などを示した。『字義字訓辞典』で名義抄または字類抄の「ツク」を字訓に採用しないものは()で括った。

この表を通覧すると「付ツク」54字に関して、次のことが分かる。

  1. 字類抄「付ツク」54字のうち、字類抄略注は、37字に考証を加えている。
  2. 字類抄「付ツク」54字のうち、『字義字訓辞典』は32字に考証を加えているが、その字訓に「ツク」を挙げるのは14字である。
  3. 字類抄略注に取り上げていない字類抄の漢字17字のうち、『字義字訓辞典』は15字を考証しているが、その字訓に「ツク」を挙げるのは8字である。
  4. 字類抄略注と『字義字訓辞典』の双方で考証の対象となっていない漢字は2字である。(和訓「ツク」に関する考証の有無は無関係とする)
  5. 字類抄に和訓「ツク」があって名義抄にその和訓がない漢字は22字である。
  6. 字類抄にあって日国表記欄にない漢字は14字である。

字類抄「付ツク」54字について、『字義字訓辞典』で32字、字類抄略注で37字を取り上げており、重出を調整すると、都合52字に考証を加えている。 これは字類抄「付ツク」54字の96パーセントに及ぶもので、この考証の質と量にただただ驚嘆するばかりである。

字類抄略注で未検討の例 #

字類抄略注と『字義字訓辞典』とで考証のない漢字は「㧢」と「扔」の2字である。 この2字は名義抄に「ツク」が見える。

「㧢」は説文「就也」とあり、万象名義・宋本玉篇・広韻も「就也」を受け継ぐ。

「扔」は老子道徳経「則攘臂而扔之」とあり、経典釈文「而扔」に「人證反又音仍引也因也字林云就也數也原音」と「就也」の義注が見える。また集韻「扔」に「博雅引也一曰就也推也數也」(去声證韻、認:如證切)と見える。

『字義字訓辞典』で未検討の例 #

『字義字訓辞典』にあっても字訓に「ツク」を挙げない漢字は18字あり、 そのうち字類抄略注に考証のないのは、「輔傳戀眼從赴依」の7字である。

手始めに「戀」を検討してみよう。

「戀」は、試みに宗福邦・陳世鐃・蕭海波主編『故訓匯纂』(商務印書館、2007年)を参照して、どのような訓詁があるかを 確かめてみよう。 連番は白抜きの①~⑥だが、便宜、変更する。

戀 liàn 《廣韻》力巻切,去線來。

  1. ~,慕也。《玉篇・心部》|《廣韻・線韻》|《集韻・線韻》。
  2. ~,思也。《易・小畜》“有孚攣如”陸德明釋文引夏傳|《慧琳音義》巻三“~著”引《考聲》。
  3. ~,眷也。《文選・曹植〈與吴季重書〉》“懷~反側”吕向注。
  4. ~,惜不能去也。《玄應音義》巻十九“~嫪”注引《聲類》。
  5. ~,係也。《慧琳音義》巻三“~著”引《古今正字》。
  6. ~作念。《文選・張協〈雜詩〉》“離羣~所思”舊校:“五臣作念”。

1したう(慕)、2おもう(思)、3こふ(眷)の意である。4もこいしたう意。 5かける(係)の意もある。「攣」は説文「係也」とある。

「䜌」を声符に持つ漢字は多く、 「戀」「攣」「臠」「孌」などがある。

先に挙げた《易・小畜》の経典釈文には 「攣」に「力專反馬云連也徐又力轉反子夏傳作戀云惠也」と見える。 「攣」にはつながる(連也)の意があり、そこから、つくの意が生じたかとも考えられる。

字類抄で「戀」にどのような和訓があるか、島田友啓『色葉字類抄漢字索引』(私家版、1968年)を手がかりにすると次が見つかる。 「戀」は太字で示す。校訂した文字には()内に付す。

  • 慈イツクシ悲愍噞仁恩惠嚴㽵宗崇〈已上同〉(イ・辞字)
  • 煩ワツラヒ/ワツラハシ𢙉累懋懮㨣嬈洿懣𧈪旁纍究憞溷靡櫌〈已上同〉(ワ・人事)
  • 苦クルシフ困揵苛■(酷)勞邅■(寇)慨誶怐〈已上同〉(ク・人事)
  • コヒ想惷慕吟郁〈已上同〉(ク・人事)
  • 慕シタフ從遏子櫝〈已上同〉(ク・人事)

これに対して名義抄には次のように見えている。

  • 戀 力泉反 コフ-ヒシ-ヒ(L@-LL-L) オモフ ヤハラカニ ナイカシロ(LH@@@) コロス 係也 *トヽム *イマシム オソル 病也 慕也 和レン(LL)

字類抄が「イツクシ」「ワツラヒ」「ワツラハシ」「コヒ」「シタフ」の5訓であったのに対して、名義抄は 「コフ」「コヒシ」「コヒ」「オモフ」「ヤハラカニ」「ナイカシロ」「コロス」「トトム」「イマシム」「オソル」の10訓を認めることができる。

字類抄の和訓は、「イツクシ」「コヒ」「シタフ」は「慕也」「思也」「眷也」の字義に対応し、 「ワツラヒ」「ワツラハシ」「クルシフ」は万象名義に「病也」とあるのに対応または関連すると見ることができる。 名義抄の和訓は、「コフ」「コヒシ」「コヒ」「オモフ」以外について、その典拠、根拠を求めるのが難しい。

次に 「輔傳眼從赴依」の6字を検討しよう。

「輔」は、『故訓匯纂』によると、《逸周書・柔武》“維勢是~”朱右曾集訓校釋に“~,附。”とあるのを見出した。

「傳」は、字類抄黒川本に「テン」の仮名が見える。「傅」であれば、「付ツク」の52番目に出ており、万象名義「附也」とあるので、問題ない。「傳」と「傅」との混同による訓であろう。

「眼」は、「ツク」の根拠を求めがたい。

「從」は、万象名義と広韻に「就也」とある。

「赴」は、万象名義「至也」とあり、到着する意の「ツク」であろう。

「依」は、万象名義「怗也」、宋本玉篇「怙也」とあり、字類抄「怙(怗)」に「ツク」の訓がある。

ツグ(次) #

字類抄略注「次ツグ」の一覧 #

「付ツク」と同様に字類抄略注の考証内容を整理すると次のようになる。

番号漢字略注出典名義抄日国表記備考
1K0504654色葉・名義・和玉・文明・天正・書言・言海字義字訓辞典
2名義抄、文選#N/A色葉・文明(字義字訓辞典)
3名義抄、白氏文集K0611711色葉・名義・和玉・文明・明応・天正・饅頭・黒本・易林・言海字義字訓辞典
4名義抄、玉篇#N/A色葉(字義字訓辞典)
5名義抄、爾雅、三国志K0613432色葉・名義・和玉・書言字義字訓辞典
6#N/A
7名義抄、戦国策K0611351色葉・名義・文明・明応・天正・饅頭・黒本・易林・書言・ヘボン・言海字義字訓辞典
8名義抄K0710434色葉・名義・文明字義字訓辞典
9礼記K0506032字義字訓辞典
10#N/A色葉
11名義抄#N/A字義字訓辞典
12名義抄、詩K0904124(字義字訓辞典)
13𦂝名義抄、詩K0612052
14名義抄、詩、周礼K0402344
15名義抄、広雅、書経、史記#N/A
16名義抄、説文、文選K0611444色葉・名義・和玉
17名義抄、楚辞、文選#N/A原文「⿰歹刃」。字体の誤り。今正す。
18名義抄、文選K0507443
19字鏡集、文選K0800254字鏡・色葉・名義
20#N/A色葉・和玉・文明・書言・言海字義字訓辞典
21広雅#N/A色葉
22史記#N/A色葉(字義字訓辞典)
23礼記#N/A色葉(字義字訓辞典)
24#N/A
25#N/A字義字訓辞典「ツク」
26K1010214色葉・名義・和玉・文明・明応・天正・饅頭・黒本・書言字義字訓辞典
27#N/A字類抄ツ・雑物に「賃ツク 舟ー」あり。字義字訓辞典
28K0307853色葉・名義・文明・易林・言海字義字訓辞典
29#N/A
30#N/A色葉(字義字訓辞典)
31名義抄、集韻K0500882字義字訓辞典「ツク」
32名義抄K0613451字義字訓辞典「ツク」
33名義抄、広雅K1005111色葉(字義字訓辞典)
34#N/A(字義字訓辞典)
35#N/A
36𣕬#N/A
37爾雅、文選#N/A色葉・和玉・文明・書言
38名義抄、論語K0611532
39名義抄、論語K0614051色葉・名義・文明字義字訓辞典
40#N/A(字義字訓辞典)
41名義抄、礼記K0509312
42名義抄、礼記、経典釈文#N/A
43名義抄、広雅#N/A字義字訓辞典
44名義抄#N/A黒川本の字体は誤り。十巻本によって正す。字義字訓辞典
45名義抄K1010923(字義字訓辞典)
46名義抄、礼記、経典釈文K0811924
47𮓪名義抄、新撰字鏡、原本玉篇、文選#N/A
48#N/A原文「𣴎」。(字義字訓辞典)
49名義抄、字鏡集、広雅#N/A(字義字訓辞典)
50新撰字鏡、字鏡集、名義抄、藝文類聚、荘子K0803913原文「𮐹」。(字義字訓辞典)
51#N/A

この表を通覧すると「次ツグ」51字に関して、次のことが分かる。

  1. 字類抄「次ツグ」51字のうち、字類抄略注は、34字に考証を加えている。
  2. 字類抄「次ツグ」51字のうち、『字義字訓辞典』は30字に考証を加えているが、その字訓に「ツグ」または「ツク」を挙げるのは18字である。
  3. 字類抄略注に取り上げていない字類抄の漢字17字のうち、『字義字訓辞典』では6字を考証している。
  4. 字類抄略注と『字義字訓辞典』の双方で考証の対象となっていない漢字は7字である。(和訓「ツグ」に関する考証の有無は無関係とする)
  5. 字類抄に和訓「ツグ」があって名義抄にその和訓がない漢字は28字である。
  6. 字類抄にあって日国表記欄にない漢字は31字である。

字類抄略注で未検討の例 #

字類抄略注と『字義字訓辞典』とで考証のない漢字は「傅絢莅潰搆𣕬顓」の7字である。 この7字はいずれも名義抄に「ツグ」が見えない。 順に検討する。

「傅」は、字類抄で「付ツク」と同訓とされ、字類抄略注はそこで漢書と史記を引いて考証を加えている。万象名義に「附也」とある。

「絢」は名義抄に「アヤ」「カイマタラ」の訓が見える。「ツグ」の根拠は求めがたい。類似した字形の漢字(形近字)に「紉」があり、 名義抄は「次ツグ」と同訓としている。字類抄は原文「⿰歹刃」とするが、字類抄略注は、字体の誤りとして正している。 訓詁は、名義抄、楚辞、文選により考証している。

「莅」は、字類抄略注の「付ツク」の37「荏」で、十巻本「莅」、黒川本は誤りとし、字鏡集、礼記、経典釈文を挙げて考証している。 名義抄は、「莅」に「ノゾム」「ムカフ」「マサシ」「サカユ」「カナフ」「タム」の訓があり、次項「蒞」に「ノソム」、さらに次項「蓓」に「ツク」とある。

「潰」は、名義抄に「ツイデ」の訓がある。

「搆」は、「構」に通用。「ツグ」の字義は確認できない。

「𣕬」は、見慣れぬ漢字で、字義不明。

「顓」は、説文「頭顓顓謹皃」とあり、うやうやしい、愼むさまの意。「顓頊」は上古の帝王の名、黄帝の孫、昌意の子。黄帝の後を継いで帝位についた。

『字義字訓辞典』で未検討の例 #

『字義字訓辞典』にあっても字訓に「ツク」を挙げない漢字は11字あり、そのうち字類抄略注に考証のないのは、「道抄麗承」の4字である。

「道」は、名義抄に「ツグ」の訓はなく、確かな根拠を求めがたい。

「抄」は、名義抄に「ツグ」の訓はなく、確かな根拠を求めがたい。

「麗」は、名義抄に「ツク」の訓があるが、これは「附」の字義に対応するものである。

「承」は、名義抄に「ツグ」の訓はなく、確かな根拠を求めがたい。

ツク(突) #

字類抄略注「突ツク」の一覧 #

「突ツク」について、字類抄略注の考証内容を整理すると次のようになる。

番号漢字略注出典名義抄日国表記備考
1K0706011色葉・名義・和玉・文明・伊京・天正・饅頭・黒本・易林・書言・ヘボン・言海字義字訓辞典
2名義抄K0307022色葉・名義(字義字訓辞典)
3名義抄、淮南子K0301042色葉・名義
4名義抄、広雅、文選K03071841色葉・易林
5K0307681
6K0104372色葉・名義・和玉・文明・易林・書言・言海字義字訓辞典
7K0807131色葉・名義・饅頭・易林・書言・ヘボン・言海字義字訓辞典
8字鏡集、広韻、文選K0305862色葉・名義
9名義抄、文選K0813352色葉・名義・和玉・書言
10#N/A色葉(字義字訓辞典)「ツキカネ」
11#N/A色葉
12名義抄、春秋左氏伝K0908671色葉・名義
13名義抄、文選K0600811色葉・名義
14集韻#N/A(字義字訓辞典)
15K0307341色葉・名義・天正・書言
16#N/A重出。字形差あり。
17K0306312字鏡・色葉・名義・和玉・文明・天正・饅頭・黒本・易林・書言
18K06049541色葉・名義字義字訓辞典
19字鏡集、広韻#N/A色葉
20名義抄、淮南子K0600771色葉
21広雅#N/A
22𣫆字鏡集、爾雅、説文#N/A色葉
23#N/A色葉
24#N/A色葉
25白氏文集、広韻#N/A色葉
26名義抄、白氏文集、集韻K0310923色葉・名義日国表記「拄・柱」。
27名義抄、白氏文集、集韻K0806814色葉・名義
28K0310553色葉・名義・和玉
29⿰扌𠂤広韻K0305862
30広韻、戦国策#N/A色葉日国表記「槍」。

この表を通覧すると「突ツク」に関して、次のことが分かる。表の1「突」と16「突」は重出として29字で計算する。

  1. 字類抄「突ツク」29字のうち、字類抄略注は、17字に考証を加えている。
  2. 字類抄「突ツク」29字のうち、『字義字訓辞典』は11字に考証を加えているが、その字訓に「ツク」を挙げるのは5字である。
  3. 字類抄略注に取り上げていない字類抄の漢字12字のうち、『字義字訓辞典』では4字を考証している。
  4. 字類抄略注と『字義字訓辞典』の双方で考証の対象となっていない漢字は5字である。(和訓「ツク」に関する考証の有無は無関係とする)
  5. 字類抄に和訓「ツク」があって名義抄にその和訓がない漢字は11字である。
  6. 字類抄にあって日国表記欄にない漢字は5字である。

字類抄略注で未検討の例 #

字類抄略注と『字義字訓辞典』とで考証のない漢字は「揰撻擣撞杖」の5字である。 この5字のうち「揰擣撞杖」の4字にはいずれも名義抄に「ツク」が見えるが、「撻」に「ツク」は見えない。 順に検討する。

「揰」は、名義抄に「ツク」の訓がある。訓点語彙集成によれば、上野本漢書楊雄傳「ツ(ク)」の例がある。 集韻に「推擊也」(上声腫韻、湩:覩𪁪切)とある。

「撻」は、むちうつの意であり、名義抄は「ウツ」「シバラク」の2訓を挙げる。「シバラク」の訓の根拠は不詳である。 字類抄「ツク」の訓の根拠は不詳である。

「擣」は、説文「手推也」とあり、つく、手でつきくだくの意。 また説文「一曰築也」とあり、きづくの意もあり。訓点語彙集成に「ツク」の訓あり。

「撞」は、説文「卂擣也」、万象名義・宋本玉篇「撃也」、広韻「撞突也」とある。訓点語彙集成に「ツク」の訓あり。

「杖」は、名義抄と訓点語彙集成に「ツク」の訓がある。

『字義字訓辞典』で未検討の例 #

『字義字訓辞典』にあっても字訓に「ツク」を挙げない漢字6字あり、そのうち字類抄略注に考証のないのは、 「鐘襲堀」の3字である。

「鐘」は、説文「樂鐘也。秋分之音、物穜成」とあり、つりがねの意。

「襲」は、名義抄「ツグ」とあるが、これは、つぐ(継)の意である。

「堀」は、万象名義・宋本玉篇「突也」とある。

ツク(漬) #

該当するのは1例であるが、他と同じように表にして示す。

番号漢字略注出典名義抄日国表記備考
1K0502142色葉・名義・和玉・書言・言海字義字訓辞典

『字義字訓辞典』は 周礼・考工記の鍾氏に「淳而漬之」を挙げて、注に「漬猶染也」、液の中に物をつけておくのが「漬」であるとする。 また、『一切経音義』巻十四「淹漬」の注に引いた通俗文に「水浸曰漬」とあるのを挙げる。

ツグ(告) #

字類抄略注「告ツグ」の一覧 #

「告ツグ」について、字類抄略注の考証内容を整理すると次のようになる。

番号漢字略注出典名義抄日国表記備考
1K0206144色葉・名義・和玉・文明・明応・天正・饅頭・易林・書言・ヘボン・言海字義字訓辞典
2K0504981色葉・名義・和玉・易林
3字鏡集、爾雅、文選K0506884色葉・名義
4K1005111色葉・名義(字義字訓辞典)
5字鏡集#N/A色葉(字義字訓辞典)
6名義抄K0506841色葉・名義(字義字訓辞典)
7𦕑字鏡集、玉篇、礼記、経典釈文、集韻#N/A色葉・名義・和玉原本「⿰耳反」。黒川本、字体誤り。十巻本による。
8名義抄、漢書K0505213色葉・名義字義字訓辞典
9名義抄、易K0301954色葉・名義・和玉(字義字訓辞典)
10一切経音義#N/A色葉
11名義抄、礼記K0106571色葉・名義字義字訓辞典
12名義抄K0505452色葉・名義・和玉「謝」、十巻本による。日国表記「識」もあり。(字義字訓辞典)
13名義抄K0506032色葉・名義・和玉字義字訓辞典
14K0506054色葉・名義(字義字訓辞典)
15名義抄、詩K0907484色葉・名義
16名義抄、詩、経典釈文K0504784色葉・名義・和玉
17#N/A色葉(字義字訓辞典)
18K0614051色葉
19𦧵玉篇#N/A色葉字体は誤り。今正す。字義字訓辞典

この表を通覧すると「告ツグ」19字に関して、次のことが分かる。

  1. 字類抄「告ツグ」19字のうち、字類抄略注は、13字に考証を加えている。
  2. 字類抄「告ツグ」19字のうち、『字義字訓辞典』は12字に考証を加えているが、その字訓に「ツグ」を挙げるのは5字である。
  3. 字類抄略注に取り上げていない字類抄の漢字12字のうち、『字義字訓辞典』では6字を考証している。
  4. 字類抄略注と『字義字訓辞典』の双方で考証の対象となっていない漢字は1字である。(和訓「ツグ」に関する考証の有無は無関係とする)
  5. 字類抄に和訓「ツグ」があって名義抄にその和訓がない漢字は5字である。
  6. 字類抄にあって日国表記欄にない漢字はない。

字類抄略注で未検討の例 #

字類抄略注と『字義字訓辞典』とで考証のない漢字は「誥」の1字である。

「誥」は、 爾雅・釈詁「誥、告也」とあり、説文・万象名義・宋本玉篇・広韻も同じ内容である。 名義抄の図書寮本は「ツク(HL")書」と、書経の和訓を引いている。

『字義字訓辞典』で未検討の例 #

『字義字訓辞典』にあっても字訓に「ツグ」を挙げない漢字は7字あり、そのうち字類抄略注に考証のないのは、「風議私」の3字である。

「風」は、万象名義・宋本玉篇・広韻「告也」とある。

「議」は、名義抄に「ツク」とある。説文・万象名義・宋本玉篇・広韻「語也」とあり、これによるか。

「私」は、万象名義「語也」とあり、これによるか。

ヅク(木菟) #

該当するのは1例であるが、他と同じように表にして示す。

番号漢字略注出典名義抄日国表記備考
1木𪞁#N/A和名・色葉・書言日国表記「木兎」

字類抄の原文では見出し語「木𪞁」、注「ツク又ミツク作鵵鳥有毛角也」とある。 「ミツク」は「ミミツク」を誤ったものである。

「𪞁」はGlyphWikiで表示すると 𪞁 である。

「𪞁」は「兔」の異体字であるが、ユニコード互換漢字のU+2F80F「兔」に 割り当てられており、使用する環境により表示される字形が相違することがある。

互換漢字「兔」は、康熙字典体の 兔 であり、U+5154の「兔」は 兔である。

「兔」の異体字は、他に「菟」「莵」があるので、整理すると次のようになる。

  • 兎 U+514E 兎
  • 兔 U+5154 兔
  • 兔 U+2F80F 兔
  • 菟 U+83DF 菟
  • 莵 U+83B5 莵
  • 𪞁 U+2A781 𪞁

以下、「木兔」として説明する。

字類抄「木兔」の注に見える「作鵵鳥有毛角也」の「鵵」は、広韻「木鵵鳥有毛角」(去声暮韻、菟:湯故切) とあり、「鳥有毛角也」の部分は一致している。

「木兔」は爾雅・釈鳥「雈老鵵」の注に 「木兔也。似鴟鵂而小、兔頭、有角毛脚、夜飛、好食雞。雈音丸」とあり、づく、みみづくのことである。 ちなみに「雈」(カン、みみづく、U+96C8、𪞁)は隹部の字で、 「萑」(スイ、草の多いさま、U+8411、𪞁)は草部の字で別字である。

「萑」とは、「老鵵」である、という爾雅の本文に注にて 木兔のこと、鴟鵂に似て小さい、兔の頭、角と毛脚があり、夜飛び、好んで雞を食す、と説明されている。

「鴟鵂」(シキュウ)はみみづくのことで、荘子・外篇・秋水「鴟鵂夜撮蚤」(鴟鵂夜蚤を撮る)は みみづくの目は昼間はよく見えないのに、夜いは小さなノミをもとらえること、転じて、ものにはそれぞれの性質に 応じた特性があることとのたとえとして用いられる。

名義抄では、「巧ー(婦)」「木ー(兔)」「𪃪鵒」「鶹鶹⿰畱鳥」「鴹」「𫛇」の6項目に「ヅク」の訓が見えている。

「巧婦」は、料理や裁縫などの婦巧にたくみな婦人の意。 箋注本和名抄(巻7羽族部)「巧婦 兼名苑注云巧婦〈太久美止利〉好剖葦皮食中蟲故亦名蘆虎」とある。 巢を作ることがたくみであることから「タクミドリ」と言い、鷦鷯(みそさざい)の古名である。 爾雅・釈鳥「桃蟲、鷦、其雌鴱」郭璞注「鷦𪃧、桃雀也、俗呼爲巧婦」と見える。 「桃蟲(蟲)」「鷦」「鷦𪃧」「巧婦」「蒙鳩」「女匠」「匠雀」「𪀘」「桑飛」などは、鷦鷯(みそさざい)の異名である。 和名抄に「巧婦」を「ヅク」と読む根拠は求められないが、 新撰字鏡には「𪀘 似醬。桑飛。又巧婦。豆久」とある。 これによれば、「𪀘」は、音が「似醬(反)」、義は「桑飛」(みそさざい)であり、 また「巧婦」「豆久」ともいう。これにより「巧婦」の訓が「豆久」である根拠が求められる。 名義抄「巧婦」の「ヅク」には合点が付されており、従来より、新撰字鏡との関連が指摘されているものである。 山本秀人「改編本類聚名義抄における新撰字鏡を出典とする和訓の増補について―熟字訓を対象として―」『国語学』144、1986年)などを参照。

「𪃪鵒」は字体注「或正」、音注「音欲」とある。 「鵒」について見ると、広韻「鴝鵒」(入声燭韻、欲:余蜀切)とあり、「鴝鵒」は「八哥鳥」のことである。「鵒」に近似した字形の「鵅」を用いる「鴝鵅」は爾雅・釈鳥「鵅、鵋䳢」の注に「今江東鵂鶹爲鵋䳢、亦謂之鴝鵅◯鵅音格鵋音忌䳢音欺」とあり、ここに見える「鵂鶹」「鵋䳢」「鴝鵅」はみみづく、ふくろうのことである。 名義抄は、「鵒」と「鵅」とを混同している。

「鶹鶹𪅳」は、名義抄の注文に「今或正 音留 ツク *フクロフ *サケ イヒトヨ」とある。 「𪅳」は、説文「鳥少美長醜爲𪅳離」とあり、ひなの時美しく、長じて醜い鳥のこと。 爾雅・釈鳥には「鳥少美長醜爲鶹鷅」、注「鶹鷅、猶留離、詩所謂留離之子」とある。 爾雅疏に「自關而西謂梟爲流離」とあり、ふくろう(梟)のこととしている。 「サケ」は、箋注本和名抄巻七羽族部に「梟 説文云梟〈古堯反布久呂布辨色立成云佐計〉食父母不孝鳥也爾雅注云鴟梟分別大小之名也」とあり、ふくろうのことである。 「イヒトヨ」は岩崎本日本書紀皇極天皇三年に「休留イヒトヨ」とあり、ふくろうの古名である。

「鴹」は、宋本玉篇「𪄲鴹」、広韻「𪄲鴹一足鳥舞則天下雨出字統」とある。名義抄には 見出し「鴹⿰𦍋鳥」 鴹 ⿰𦍋鳥 に「音羊 𪄲ー鳥也 鳥一足也 上クヒナ」の注文があり、 次の見出し「鴹」鴹 に「タヽヲ タヲ ツキ(HH) *ツク」の注文がある。 和訓「クヒナ」は新撰字鏡「咋奈」とあるのによる。 「鴹」を「ヅク」と読む根拠は今のところ見つけられない。

「𫛇」は、見慣れない漢字であり、「ヅク」と読む根拠は見つけられない。

おわりに #

かなり根気強く調べてきたが、なかなかうまくまとまらないので、 ひとまずここで和訓「ツク」を例にした同仮名異語の区別の検証は終えることとする。