項目の種類 #
このセクションでは、類聚名義抄の項目をどのような基準で分類し、それぞれどのような特徴を持つか説明する。
掲出字形式による分類 #
項目は、それを構成する掲出字の形式(単字または複字)によって分類することができる。
単字形式と複字形式 #
掲出字は単字形式(Single Character Form)と 複字形式(Multi-Character Form)とがある。
例
- 単字形式の例:人
- 複字形式の例:一人、二人、五人
krm_headword_chars.tsv(2025年5月12日の最新版1.2.1)を元に集計すると、 観智院本の総項目数32,607項目のうち、単字形式は24,692項目であり、 複字形式は7,915項目であった。
項目の内容・関係性による分類 #
掲出字形式以外に、項目を分類する主な基準として、項目の内容を基準とする分類と、 項目と項目の関係性を基準とする分類がある。
異体字併記項目 #
掲出字が単字形式の場合は、注文中の字体注記により判断されるが、 前後の項目との関係で字体注記がなくても異体項目と判断することもできる。
ここでいう「字体注記」とは、「正」「俗」「通」などの字体の種類・規範を直接的に指す用語であり、 西原一幸氏の提唱する「字体規範」、李景遠氏の「字級」に相当する概念である。 英語の用語としては、 西原氏の「字体規範」は字形の標準化ラベルである “Glyph Standard Label” に、 李氏の「字級」は字形分類タグである “Form Classification Tag” に近いと言える。 この文書では、李氏の「字級」に近い意味合いで、日本語では「字体注記」、英語では主に “Form Classification Tag” を用いることとする。
異体字併記項目(Entry with Variant Character Information)とは、 掲出字を併記して異体字を示したり、注文の中で、 「正」「俗」等の字体注記を施したりする項目のことである。
異体字の併記の仕方は、単字形式により連続した項目として、 その注文の中に「正」「俗」等の字体注記を施す項目もあれば、 複字形式により一つの項目として、その注文の中に「正」「俗」等の字体注記を施す項目もある。
前後の項目との関係で字体注記がなくても異体字併記項目と判断することもできる。
注文中に見える「正」「俗」等の字体注記の内容か、掲出字と掲出字との関係性により 異体字併記項目と判断される。
現時点では、正確な数値を算出できていないが、概算では、 観智院本約32,600項目のうち、異体字併記項目は約14,000項目であり、 その異体字併記項目のうち単字形式が約9,500項目、複字形式が4,500項目となる見込みである。
次に具体例をあげて説明する。
例
- 字体注記ありの例:槎査 上通下正
- 字体注記ありの例:㔽卣 今正
- 字体注記なしの例:若𠰥 音弱(SV)「シヤク」 モシ(RL) …
- 字体注記なしの例:政⿰正攴 之盛反 マツリコト(HHHH_) …
- 字体注記なしの例:
溺字 キヨシ(LL_) タヽヨフ
(無)
1の例は、注文「上通下正」から、掲出字の「槎」が「通」、「査」が「正」と記述されており、「槎」と「査」が異体字関係にある掲出字として併記されていることが分かる。 2の例も、注文の「今正」から、掲出字の「㔽」が「今」「卣」が「正」と記述されており、異体字併記項目と判断できる。
3と4の例は、いずれも注文に字体注が見えない例である。 3の例の「若」と「𠰥」とは「艹」と「䒑」とのごく僅かな相違、同様に 4の例の「政」と「⿰正攴」とは「攵」と「攴」とのごく僅かな相違であり、両者とも 異体字関係にあることは明らかである。
5の例は、
に字体注「溺字」があるものの、次項
は注文を欠くものである。
この例は、「㲻」とその異体字に関わるので、両者の相違を明示するためにGlyphWikiを利用して表示した。
熟語項目 #
熟語項目(Idiom Entry)は、掲出字が複字形式で熟語であるものである。 注文中に熟語としての説明がある場合は熟語項目として問題ないが、 熟語としての説明がなく、掲出字のそれぞれに音注・義注を施す場合でも熟語項目とみなす。
現時点では、正確な数値を算出できていないが、概算では、 熟語項目の数値は次のように見込まれる。
観智院本約32,600項目のうち、異体字併記項目は約14,000項目であったから、 異体併記項目でない項目は約18,600項目となる。 この約18,600項目のうち、単字形式が約15,000項目、 複字形式が3,500項目である。この複字形式が熟語項目と見込まれる。 残りは約100項目となるが、これは内容から項目の種類を判断できないものである。
次に具体例を示す。
例
- 凡ー(俗) タヽヒト(LLV__) ワロ人(LL_)
- 苾蒭 上蒲(L)「ホ」結(S)反 古馝字 香草也 カウハシ 又毗必反 下音鶵 草之惣名 クサ *カラクサ ワラ
- 齟齬 上慈呂(H)反 嚼 ナヤマシ(LL__)
- 菡萏 上胡感反 下徒感反 ーー〔菡萏〕 ハチスノハナ
1の「凡俗」は、熟語の和訓として「タヽヒト」と「ワロ人」を記載している。 2の「苾蒭」は熟語の上字「苾」と下字「蒭」のそれぞれに音注・義注・和訓などを記載している。 3の「齟齬」は熟語の上字「齟」の音注・義注・和訓を記載している。 4の「菡萏」は上字「菡」と下字「萏」のそれぞれの音注を記載した後に、熟語「菡萏」に対する和訓「ハチスノハナ」を記載している。
基本項目と拡張項目 #
掲出項目は、注文の形式から、 掲出字に対する「形」「音」「義」のすべてが記入されている基本項目(Basic Entry)と、 それ以外の拡張項目(Extended Entry)とに分ける。
「形」は掲出字自身と字体注、「音」は音注、「義」は義注と和訓によって表される。
基本項目はその掲出字が単字形式であるか複字形式であるかを問わない。 拡張項目は、形式上、基本項目に連続するものとする。
拡張項目は、内容上、掲出字に対する「形」「音」「義」の一部が記入されるものとするが、 注文がない項目や注文に「未詳」が記入された項目であっても、 前後の項目との間に何等か関連性が認められれば、拡張項目に含める。
現時点では、正確な数値を算出できていないが、概算では、 観智院本には約32,600の項目があるが、そのうち基本項目は 約15,100、拡張項目は約17,000となる見込みである。 残りの約500項目は、項目間の関係性が希薄であり、臨時的・便宜的に 配置した項目と推測される。
次に具体例を示す。
例
- 基本項目:人 音仁(LV)「ニン」 ヒト(HL) ワレ(LL) サネ マホル ユク
- 拡張項目:一人 ヒトリ(LH_)
- 拡張項目:二人 フタリ(HHL)
独立項目と連続項目 #
掲出項目は、基本項目が拡張項目を持つかどうかによって、 拡張項目を持たない基本項目のみの独立項目(Independent Entry)と、 基本項目と拡張項目の双方を持つ連続項目(Serial Entry)とに分けられる。 連続項目の中の基本項目を親項目(Chief Entry)、 拡張項目を子項目(Sub Entry)と呼ぶことがある。
独立項目と連続項目の数はまだ算出できていない。
独立項目は、たとえば次のような例である。
例
- 仕 音士 ツカフ(HHL) ツカマツル(HL___) ミヤツカヘ ツモム
- 任 音壬(LV)「シム」「ニム」 タヘタリ(LR__、ヘ-フ) …
「仕」と「任」とは近似した字形であるが、別字であり、それぞれに音注と和訓が施される 基本項目となっている。しかし、「仕」の異体字や「仕」を含む熟語は見えない。 「任」も同様に関連する異体字や熟語が見えない。
連続項目は、 基本項目と拡張項目の例にあげた「人」と「一人」「二人」のような例である。 「人」は親項目、「一人」「二人」は子項目である。