義注の種類と数量 #
義注(Semantic Gloss in Chinese)とは、漢字を用いた意義注記のことである。漢文義注ともいう。
義注の文字数 #
観智院本類聚名義抄には、約12,600の義注がある。これを義注に 用いられた漢字の文字数により分類すると次のようになる。
字数 | 例数 |
---|---|
1 | 約2,300 |
2 | 約6,100 |
3 | 約2,100 |
4 | 約1,100 |
5 | 約500 |
6以上 | 約500 |
合計 | 約12,600 |
これによると2字による義注が約6,100あり、最も多い。 約12,600の義注のほぼ半分である。
1字の義注 #
1字による義注は、「C也」の「也」を省略して 注記するものである。音注の後にひとつの義注が記載され、 字体注や音注に紛れる恐れのないばあい、「也」が省略されることが多い。 掲出字Aに対して、漢字Cにより、「C也」の形式で注記するものである。 この場合、AとCは同義の関係にあることを示す。
例
hanzi_entry
: 迀,definition
: 進hanzi_entry
: 丕,definition
: 多
1の「迀」は説文「進也」とあり、広韻と宋本玉篇も同じ。万象名義に「迀」は見えず、「迁」に「進也」とある。 2の「丕」は説文と広韻に「大也」あり不一致だが、万象名義に「多也」とありこれに拠ったものである。
2字の義注 #
「也」を用いる2字の形式は、約2,400以上ある。
例
hanzi_entry
: 微,definition
: 細也hanzi_entry
: 偉,definition
: 大也
この他のタイプでは、「C名」の約480、「Bー(A)」が約250、「ー(A)B」の約190、 「B声」の約80、 「B属」の約80、 「B皃」の約70などが多い。
いくつか例を挙げる。
例
hanzi_entry
: 渭,definition
: 水名hanzi_entry
: 狽,definition
: 狼ーhanzi_entry
: 負,definition
: 荷ーhanzi_entry
: 茱,definition
: ー萸hanzi_entry
: 䓁,definition
: ー閑 ナヲサリカテラhanzi_entry
: 唄,definition
: 梵声hanzi_entry
: 黽,definition
: 蛙属hanzi_entry
: 粲/然,definition
: 明皃
1の「渭」は黄河の支流の一つ。魚釣りをしていた太公望が周の文王と出会ったのが渭水の北岸。 名義抄中、「水名」は90例、ついで「地名」33例、「縣名」31例、「國名」29例、「木名」22例が多い。 これは「C名」のタイプの例である。
2の「狽」は「狼狽」の一部として用いることを代用符号「ー」により示す。 これは「Bー(A)」のタイプの例である。
3の「負」の「荷負」も「Bー(A)」のタイプの例である。
4の「茱」は、熟語「茱萸」(グミのこと)の一部として用いることを代用符号「ー」により示す。 「茱」は広韻「市朱切」(平声虞韻禪三母、殊)、「萸」は広韻「羊朱切」(平声萸韻喩四母、逾)であり、 畳韻の熟語である。 これは「ー(A)B」のタイプの例である。
5の「䓁(等)」は「等閑」の一部として用いることを代用符号「ー」により示す。 この例は白氏文集・琵琶行「秋月春風等閑度」による和訓「ナヲサリカテラ」が施されている (舩城俊太郎「白氏文集と色葉字類抄」(新潟大学人文科学研究、121、2007年)。 「等閑」は埋字あるいは分註式の熟語である。これも「ー(A)B」のタイプの例である。
6の「唄」に「梵声」とあるのは、広韻「梵音」、宋本玉篇「梵音聲」とあるのに類似する説明である。
7の「黽」に「蛙属」とあるのは、広韻「蛙屬」に拠ったと推定される。 「B属」のタイプは、「豕属」「鹿属」のような動物、「橘属」「梨属」のような植物、 「楸属」「匙属」のような物の例も見えている。
8の「粲然」に「明皃」とあるのは、明らかなさまの意である。「皃」は「貌」の異体字で 様子や状態を表す接尾辞として頻用される。古写本では「㒵」「皀」のように書かれることもある。
3字による義注 #
3字による義注は、掲出字Aに対して、「CD也」の形式で注記するものである。 熟語の掲出字ABに対して「CD也」の形式で注記することもある。
3字による義注約2,100のうち、「也」を付す形式が約700で三分の一を占める。 「也」の他には「皃」「名」「声」などが用いられることもある。 これらはそれぞれ50以上の例がある。例をいくつかあげる。
例
hanzi_entry
: 仞,definition
: 一尋也hanzi_entry
: 彗,definition
: 衆星皃hanzi_entry
: 韶,definition
: 舜樂名hanzi_entry
: 嚊,definition
: 喘息声
4字以上の義注については、説明を省略する。
片仮名と誤認された義注 #
義注の誤写は多い。典拠を探索し、どのような字義を説いているのか、どのような文脈で用いられるかを確認することが重要である。
kazama_location
: K03009110,hanzi_entry
: 髎,definition
: 力遙反 尻骨謂之八ー(謂-詣イ、八ー-ハキ〈イ〉) 侖作膫非
玄応音義による項目。注文の 「八髎 」を「八ー」と書写し、片仮名和訓「ハキ」と誤認したと推測できる。
kazama_location
: K07039310,hanzi_entry
: 𪗍,definition
: 音同 等
「等」を草川和訓集成は「ホ」で採録するが、正宗索引は「ホ」に見えない。 「𪗍」は説文解字に「等也」とある。 草川は、「等」の行草書が「ホ」のように書写されるのを和訓と誤認したのである。 正宗は、正しく漢字と判読したと推測される。 「音同」とあるのは、前に出てくる「齊」の音と同じという注記である。