掲出字数の算出 #
本ページは、注釈作成の基本方針と分析対象を支える詳細な集計資料である。以下で用いる誤字・脱字・衍字等の用語の定義は、書写・表記・注記における問題と対応を参照。
ここでは、誤字、脱字、衍字、補入、埋字、代用符号、踊り字などについて解説し、 掲出字数の算出を行う。掲出字数は、掲出字の延べの字数のことである。
そして、この掲出字数の算出の結果に基づき、掲出項目数の算出も行う。 掲出項目数は、単字の掲出字からなる項目、2字の掲出字からなる項目のように、掲出項目を 構成する字数ごとに集計する。
最後に、名義抄の120の部ごとに、掲出字数と掲出項目数を一覧する。 そこでは、酒井憲二が算出した掲出項目数と照合しながら、筆者らの算出との相違点 も解説する。
誤字 #
掲出字の誤字(Miswritten Character)の例をいくつかあげる。
用例は、krm_main.tsvから必要部分を抜き出したものに、
krm_notes.tsvのremarksの内容を追加して示す。
また、参照の便宜を考えて、風間版の所在をkazama_locationとして示す。
K02008840は巻2(仏中)、8頁、8行、4段に出現することを示す(最後の1桁の数値の説明は略)。
最初は比較的単純な例である。
例
kazama_location: K02008840hanzi_entry: 姡original_entry: 活definition: 今remrks: 掲出字は誤写。高山寺本・蓮成院本・西念寺本「姡」に作るにより改める。
この例は、女部の掲出字であり、異本に女偏の「姡」に作ることから、観智院本に誤写があることは明白である。
次は、誤字かどうか判断に迷う例である。
例
kazama_location: K01045610hanzi_entry: 迷original_entry: 〇definition: 俗悉字 私逸反remrks: 掲出字は「悉」の異体字「⿺辶半」が変化した字形か。
この例の「迷」は注文に「俗悉字」とあり、「悉」の「俗」体とされている。 「迷」と「悉」とは別字であり、両者を結びつけるには誤写を想定する必要がある。 「悉」の下の「心」を「辶」のように書写することから生まれたと 推測される。「悉」の異体字と「迷」とが衝突した例である。
「悉」から「迷」までの変化の過程は次のように想定できる。
→
→
→
→

GlyphWikiによれば、
(𨒃 u28483)
は[疑難字考釋與研究]に例がある。
脱字 #
掲出字の脱字(Omitted Characters)は、別に一覧したが、次に再掲する。 脱字であることが明らかな掲出字は、全角の角括弧の[]に入れて示す。
例
是/[以]
不/奈/[何]
将/為/[便]
嘻/[囉]
奢/[侈]
奚/[如]
注釈の一例を次に示す。
例
kazama_location: K02006630hanzi_entry: 奚/[如]original_entry: 〇/〇definition: イカム(__Lremarks: 「如」脱字。蓮成院本「奚如」に作る。高山寺本「ー」を用いず「如」と記し、女部後半付近に記載。高山寺本が先行する例(岡田研究192頁)。
衍字 #
掲出字の衍字(Superfluous Characters)はほとんど認められない。
例
kazama_location: K04024810,hanzi_entry: ⿱赤廾,definition: サカユ シツカナリkazama_location: K04024820,hanzi_entry: 人,definition: (無),remarks: 衍字か。あるいは掲出字は「奕」の異体で、熟語「奕奕」の踊り字を誤写するか。「奕奕」は詩経に例あり。
「人」字が存在する理由は明確ではなく、衍字の疑いがある。
埋字(分註式) #
埋字(Embedded Characters)とは、ひとつの項目の中に繰り込まれた項目のことである。
例
kazama_location: K02012610,hanzi_entry: 娜,definition:乃可(H)反 マヽハヽ タヲヤカナリ 婀ー ヨキカホ ナマメク,remarks:「婀ー ヨキカホ ナマメク」は埋字項目か。
この埋字を項目相当のものとすることもできるし、注文中で熟語について解説したものとすることもできる。
熟字を単字に注の中に、埋め込む方式を「分註式」、埋め込まずに単字の掲出項目の次に 独立した掲出項目とする方式を「独立式」という(岡田希雄『類聚名義抄の研究』313頁以下)。
諸本の系統関係、前後関係を考察する上で重要な指標となるものであるが、ここではこれ以上触れない。
代用符号(|) #
前の項目と同一の掲出字が用いられる場合、それを代用して「丨」を用いる。このデータベースでは横書きの表示で見やすくするために「ー」を用い、その符号の後に、該当する掲出字を記載している。
代用符号(Substitution Marks)の「ー」は、ほとんどの場合、前の項目の掲出字を指すとして問題ないが、ごくまれに前の項目を飛ばしたところの項目の掲出字が入ることがあるので、注意が必要である。
次の例では、「ー」がかなり離れた掲出字を指している。
例
kazama_location: K01038411,hanzi_entry: 以/後,definition: ノチkazama_location: K01038420,hanzi_entry: 㣭,definition: 字公(L)反 數也kazama_location: K01038430,hanzi_entry: 𢓈,definition: 音旬之去声 トヽム メクル アマネシkazama_location: K01038510,hanzi_entry: 徇,definition: 同 トナフ *アハネシ(L___) シタカフ(_HV) *イトナムkazama_location: K01038530,hanzi_entry: 彴,definition: 止「已」約反 シタフkazama_location: K01038541,hanzi_entry: 已/ー,definition: 同
kazama_location: K01038611,hanzi_entry: 向/ー,definition: ユクサキ(HH__) ユクスヱ,remarks: 掲出字は「向後」とすべきを誤る。岡田研究193-194頁に「ー」使用は高山寺本が適切との指摘あり。
最後の二つの掲出字は、素直に考えれば「已/ー(彴)」と「向/ー(彴)」となるが、これでは意味が通じない。この箇所は岡田希雄が指摘したように、「向後」とすべきものである。その前の「已/ー」は「已/後」となるべきものである。
つまり、この箇所は、元来「以/後」「已/ー」「向/ー」の順に掲出されていたところに、
上に列記した項目の二番目のK01038420「㣭」から5番目のK01038530「彴」が挿入されたことが想定されるのである。
踊り字(〻) #
踊り字(Iteration Mark)は繰り返し符号などとも呼ばれる。漢字の踊り字は、現在、「々」を用いるが、このデータベースでは 「〻」を用いている。観智院本では、次の例のように、熟語項目の2字目以降に用いられる。
例
kazama_location: K01059441,hanzi_entry: ー(迢)/〻(迢),definition: トホノカナリkazama_location: K02021731,hanzi_entry: 曽/ー(祖)/〻(母),definition: オホオハ(LHLHV)kazama_location: K06036711,hanzi_entry: 郁/〻(郁),definition: マタラカナリ(LLVHL__)
注文の文字を大字に書写 #
注文の文字が掲出字と同じ大きさの大字で書写されて、掲出字と紛れやすい例がある。
例
kazama_location: K02051210hanzi_entry: 𠰍definition: 音主 呼鷄remarks: 高山寺本・蓮成院本ともに「呼鷄」を「ー〻呼鷄」に作る。観智院本は「呼鷄」を大字で書写。
口部の例である。観智院本は「呼鷄」を大字に書写するが、高山寺本・蓮成院本ともに「ー〻呼鷄」に作っており、注文の文字とすべき例である。
例
kazama_location: K06100620hanzi_entry: 憙definition:音喜(H-L) 又嬉 コノム(LLH) 喜「注也」 ネカフ ツクス ヨロコフ(LLH_) ヒロシ(LL_)remarks: 注文「喜」は大字、「注也」はその左に朱筆。
この例は心部にあるが、「喜」が大字で書写され掲出字のように見える。しかし「喜」の左に「注也」とあって、「喜」が注文の文字であって、掲出字でないことを明示している。
掲出項目数 #
掲出項目数と掲出字数 #
観智院本『類聚名義抄』の掲出項目数は、池田証壽・劉冠偉・鄭門鎬・張馨方・李媛「観智院本『類聚名義抄』全文テキストデータベース―その構築方法と掲出項目数等の計量―」(『訓点語と訓点資料』144、2020)に掲載した。この論文には、掲出項目をその字数により分類し、その内訳も記載している。
| No | 部1 | 1字 | 2字 | 3字 | 4字 | 5字 | 6字以上 | 項目数 | 字数 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 001 | 人 | 616 | 203 | 26 | 5 | 2 | 3 | 855 | 1,149 |
とあるのは、人部に1字(単字形式)の掲出項目が616あることを示す。 2字以上は複字形式であり、順に2字が203、3字が26、4字が5、5字が2、6字以上が3である ことを示す。項目数は855である。 6字以上の内訳は6字が2、7字が1である。 したがって、字数は次の計算式により、1,149と算出される。
(616 x 1) + (203 x 2) + (26 x 3) + (4 x 2) + (5 x 5) + (6 x 3) = 1,149
掲出項目数の点検 #
掲出項目数の点検は、酒井憲二 「類聚名義抄の字順と部首排列」(山田忠雄編『本邦辞書史論叢』三省堂、191–258頁、1967)に示された数値との相違する部首を中心に行った。 その結果、次の25部首に相違を見出した。差は池田ほか(2020)が酒井(1967)より少ないものを-1のように 示し、池田ほか(2020)が酒井(1967)より多いものを+1のように示す。 点検の結果、正しい掲出項目数と判断されたものを太字としている。 酒井(1967)と池田ほか(2020)の掲出項目数の いずれの数値も太字でない部首は、両者のカウントに差異がある場合でも、 今回の検証ではその正誤や差異の原因について結論に至らなかったことを意味する。
| No | 部 | 酒井 | 池田 | 差 |
|---|---|---|---|---|
| 001 | 人 | 856 | 855 | -1 |
| 003 | 辵 | 463 | 462 | -1 |
| 014 | 口 | 1,034 | 1,035 | +1 |
| 018 | 日 | 557 | 556 | -1 |
| 020 | 肉 | 718 | 717 | -1 |
| 023 | 角 | 127 | 126 | -1 |
| 027 | 髟 | 166 | 165 | -1 |
| 029 | 木 | 1,334 | 1,333 | -1 |
| 039 | 火 | 512 | 513 | +1 |
| 041 | 水 | 1,322 | 1,321 | -1 |
| 044 | 足 | 494 | 493 | -1 |
| 051 | 石 | 375 | 376 | +1 |
| 052 | 玉 | 384 | 383 | -1 |
| 057 | 心 | 909 | 908 | -1 |
| 066 | 勹 | 34 | 33 | -1 |
| 068 | 雨 | 226 | 228 | +2 |
| 075 | 疒 | 400 | 399 | -1 |
| 080 | 寸 | 41 | 39 | -2 |
| 087 | 食 | 214 | 213 | -1 |
| 095 | 弓 | 102 | 101 | -1 |
| 111 | 鳥 | 532 | 533 | +1 |
| 113 | 魚 | 378 | 379 | +1 |
| 114 | 虫 | 665 | 664 | -1 |
| 117 | 鬼 | 74 | 75 | +1 |
| 120 | 雑 | 1,500 | 1,501 | +1 |
酒井(1967)と池田ほか(2020)とが同数であるが、 点検の結果、修正が必要となったのは次の部首である。
| No | 部 | 酒井・池田 | 池田修正 | 差 |
|---|---|---|---|---|
| 028 | 手 | 1,148 | 1,149 | +1 |
| 086 | 毛 | 104 | 103 | -1 |
相違点の多くは、掲出項目の認定の仕方が 関わるものである。そこで、以下、 酒井(1967)に示された項目数との相違を具体的に説明し、 最後に修正した数値に基づいて部首毎の掲出項目数を一覧することにしよう。
詳細は部首別の掲出項目数と掲出字数を参照。
この表を含めて、以下に示す表では、「部」(Radical)を用いているが、これは筆者(池田)が書いた論文や著作で「篇」としていたのを改めたものである。 ↩︎