前書き #
注釈の試作 #
注釈をどのように作成するか、さらに 作成した注釈をどのように公表するかは 現在、検討中である。
試みに、注釈の例を作成してみた。 ご意見いただければ幸いである。 なお、K0106261 匜など、注釈すべきなのに、未記載のところが残っている。 今後、追加修正したい。
使用テキスト #
注釈の対象とする 観智院本類聚名義抄の本文は、仏上62頁(天理版34ウ)とする。 この箇所は、八木書店のWebに原寸大高精細カラー版 『類聚名義抄 観智院本』(新天理図書館善本叢書第9-11巻、八木書店、2018)の 影印本文見本が公開されている。
https://company.books-yagi.co.jp/wp-content/uploads/2018/03/95596.pdf
貴重図書複製会(1937)の影印は国立国会図書館のデジタルコレクションでみることができる。 仏上62頁は次のURLである。
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2586891/37
蓮成院本は、 『鎮国守国神社蔵本三宝類聚名義抄』(勉誠社、1986)による。
国文学研究資料館の新日本古典籍総合データベースでは、 宮内庁書陵部本が閲覧できる。 次に観智院本仏上62頁に対応する箇所のURLをあげる。
https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100256105/viewer/75
高山寺本は 『三宝類字集 高山寺本』 (新天理図書館善本叢書第8巻、八木書店、2016) による。
西念寺本は、天理図書館、関西大学に所蔵のものがよく知られる。
天理図書館本は、未公刊であるので、同図書館に願い出て影印を 入手する必要がある。
国文学研究資料館の新日本古典籍総合データベースでは、 関西大学本が閲覧できる。 次に観智院本仏上62頁に対応する箇所のURLをあげる。
https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100302544/viewer/43
この他に宮内庁書陵部本のマイクロデジタル変換の画像が閲覧できる。 次に観智院本仏上62頁に対応する箇所のURLをあげる。
https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100256105/viewer/37
天理図書館本、関西大学本、書陵部本の三本を比較すると、 関西大学本には若干の誤脱があるようである。 西念寺本をWebで閲覧するのであれば、書陵部本によるのがよいであろう。
凡例 #
観智院本の所在は、K0106212のように示す。これは観智院本第1帖62頁1行2段目に 該当項目があることを表している。 KRM.tsvで公開している掲出項目(Entry)を「建/䢖 」のように示す。 /は複数の掲出字がある場合の区切りである。
その次にGlyphWikiにより原文の字形、本文、注の順に示す。 注では注文の出現順に付した番号を最初に掲げて、注釈対象箇所を 明記している。
仏上 #
3辵 #
K0106212 建/䢖 #
(本文) 居彦(R")反 タツ(LH) ヲヨフ サル イタル ヨロコフ コホス クツカヘル 和コン
(注)
1 居彦(R")反
「建」は広韻「居万切」(去声願韻見母、建)。「䢖」は広韻「餘律切」(入声術韻喩四母、聿)。「彦」は「魚變切」(去声線韻疑母)。「彦」の声点、観智院本去声濁、高山寺本去濁(o-)、西念寺本去声、蓮成院本なし。
2 タツ(LH)
高山寺本同、蓮成院本・西念寺本声点なし。万象名義「立也」「樹也」。中村文選68頁(西京)「建タテテ」。
3 ヲヨフ
高山寺本「オヨフ(HH@)」、蓮成院本・西念寺本「オヨフ」。
4 サル
高山寺本「サ爪(LH)」、西念寺本「サ爪」、蓮成院本「サス」。西端誤写諸例39頁①誤字294。中村文選1頁(表)「建サスコト」。
5 イタル
万象名義「至也」。
6 ヨロコフ
高山寺本・蓮成院本・西念寺本は「ヨ」を異体字に書写。
7 コホス
高山寺本「コ小爪(LL"H)」。西念寺本「コ小爪(LL"H)」(声点存疑)。訓点語彙集成「建」に「イタル/コボス/サス/タツ」の訓あり。
8 クツカヘル
西念寺本同、高山寺本・蓮成院本になし。集韻「建㨴 覆也漢書居高屋之上建瓴水或作㨴」(上声阮韻、湕:紀偃切)。「高屋建瓴」はクラウン日中辞典「高屋建瓴 gāo wū jiàn líng」に「成語・成句 高い所からまっすぐ下方を見おろせる地形.また,流れの勢いを阻むことができないたとえ.『史記』高祖本紀に見えることば.地勢が出兵するのに有利で,まるで屋根から水がめの水を傾けると,水がまっすぐ流れていくようだ,という意から.」とある。「瓴」は水を入れるかめの意。
9 和コン
観智院本・蓮成院本・西念寺本「禾コン」、高山寺本「音コン」。
K0106214 𨑭 #
(本文) 丑連反 安行也 トコロ
(注)
1 丑連反
広韻・万象名義なし。宋本玉篇「斯子切」、龍龕手鏡「丑連反」。原文「刃」は「丑」の異体字。観智院本・蓮成院本・西念寺本「刃」、高山寺本「丑」に作る。「連」(平声仙韻)に高山寺本・西念寺本は平声点あり。
2 安行也
龍龕手鏡「緩歩也」。
3 トコロ
類似形字の「処」による誤訓か。
K0106221 辿 #
(本文) 俗
(注)
1 俗
掲出字を観智院本・高山寺本・蓮成院本「辿」に作るが、西念寺本のみ「」に作る、龍龕手鏡「
(𨑭辿)」
を「二同」とする。
Ta084220 延 #
(本文) 以然反 ノフ(LH) ヒク ヲヨフ シリソク ミチヒク ヒサシ チカツク ホヒコル スヽム アヒタ トヲシ ナカシ ヒロク(@@L") 和エン
(注)
1 以然反
広韻「以然切」(平声仙韻)、「于線切」(去声線韻、衍)。前者に対応。万象名義「餘旗反」、宋本玉篇「余旃切」(平声仙韻)。高山寺本「然」に平声濁の声点あり(-oの形状)、他本は声点なし。
2 ノフ(LH)
高山寺本「ノフ(LH")」、蓮成院本・西念寺本「ノフ」。万象名義「陳也」。訓点語彙集成に「オヨブ/スゴス/ススム/チカヅク/ナガシ/ノバフ/ノブ/ヒク/ミチビク/ヰル」の訓あり。
3 ヒク
蓮成院本・西念寺本同、高山寺本「ヒク(HL)」。中村文選60頁(西京)「重閨、幽闥アリテ、轉ウタヽ相踰コエ延ヒケリ」(重閨、幽闥は宮中の小さい門)。
4 ヲヨフ
蓮成院本・西念寺本「オヨフ」、高山寺本「オヨフ(HHL")」。万象名義「及也」。中村文選280頁(羽)「延オヨヒ」。
5 シリソク
蓮成院本同、高山寺本「シリソク(LL@@)」、西念寺本「シリツク」。万象名義「退也」。中村文選73頁(西京)「遷延(ト)シリソキ「退也」」(上野)「(ト)シリソキ「作延遷」」。
6 ミチヒク
蓮成院本・西念寺本同、高山寺本「ミチヒク(HH@@)」。中村文選234頁(甘)「延ミチヒク」。
7 ヒサシ
高山寺本・蓮成院本・西念寺本同。「迥」「遠」に「ヒサシ」の訓あり、そのくずし字によるか。
8 チカツク
高山寺本・蓮成院本・西念寺本同。「延」の異体字「𮞅」が「近」に類似した字形による訓か。
9 ホヒコル
西念寺本同、高山寺本・蓮成院本「小ヒコル」。日国「ほびこ・る 【蔓延】」に「いっぱいに広がる。はびこる。」の意とし、万葉集4123(雲保妣許里)、石山寺本法華経玄賛平安中期点(蔓)の例をあげる。
10 スヽム
蓮成院本・西念寺本同、高山寺本「爪ヽム」。万象名義「進也」。中村文選443頁(閑)「延スヽメ」。
11 アヒタ
高山寺本・蓮成院本・西念寺本同。万象名義「間也」。
12 トヲシ
高山寺本同、蓮成院本・西念寺本「トホシ」。広韻「遠也」。
13 ナカシ
蓮成院本同、高山寺本「ナカシ(LL"H)」、西念寺本「ナカシ」の左に「ー‥ー」あり、声点か。万象名義「長也」。中村文選339頁(魯)「曼延(ト)[ナカシ]/(寛永)ハヒコレリ[ナカシ・ナカクノヘリ]」。
14 ヒロク(@@L")
高山寺本「ヒロク(HHL")」、蓮成院本・西念寺本「ヒロク」。
15 和エン
高山寺本なし。観智院本・蓮成院本「禾エン」。西念寺本「禾エン(@L)」。
K0106231 ⿺辶屲 #
(本文) 或
(注)
1 或
観智院本・高山寺本同、西念寺本「⿺辶屲」。
K0106232 ⿺辶&CDP-8C66;𨒌 #
(本文) 俗
(注)
1 俗
「⿺辶&CDP-8C66;」はUnicodeにあり(𮞅 u2e785 )。
K0106233 ⿺辶⿱艹⿱丿止 #
(本文) ムシロ シキ物 ホヒコル
(注)
1 ムシロ
西本「ムシロ」さらに「音延」あり(岡田希雄『類聚名義抄の研究』252頁)。蓮成院本・西念寺本「ムシロ」あり、高山寺本なし。西念寺本のみ注末に「音延」あり(草川昇「類聚名義抄和訓小考」44頁例29)。「音延」西念寺本の増補(小林恭治「観智院本にない漢字注記(2)」例32)。池田按:掲出字は観智院本・高山寺本・蓮成院本同じ。西念寺本「莚」に作る。「莚」は広韻「草名」(平声仙韻、延:以然切)、「蔓莚不斷」(去声線韻、衍:于線切)。西念寺本の音注は「亠延(L)」と平声点あり。
2 シキ物
原文「シキ牜」。高山寺本・蓮成院本「シ\牜」、観智院本・西念寺本「シキ牜」。
3 ホヒコル
K0106234 蔓/莚 #
(本文) ハヒコル
(注)
1 ハヒコル
高山寺本・西念寺本同、蓮成院本「小ヒコル」。中村文選138頁(蜀)「風連莚蔓トハヒコレリ於蘭臯」。
K0106241 ー(莚)/䝯 #
(本文) 同
(注)
1 同
中村文選264頁(上)「䝯丘陵ハヒコリ「連也又延也」/(寛文)ハヒコレリ・ソヒテ」。
K0106242 筵 #
(本文) ナカムシロ
(注)
1 ナカムシロ
観智院本・高山寺本・蓮成院本は掲出字を「⿱竹𨒌」、西念寺本は「筵」に作る。日国「なが‐むしろ 【長筵】」に「たけの長いむしろ。天皇が徒歩で歩くときや神事に祭神が遷御するときの道に敷くむしろ。また、畳の表。」の意とし、延喜式「長席」、新儀式「長筵」、塘中納言物語の例をあげる。
K0106243 𨒌 #
(本文) 𨒌並征字
(注)
1 𨒌並征字
観智院本・高山寺本同。蓮成院本は掲出字「𨒌𨒌」注文「並征字」とする。
観智院本・西念寺本の注文の「𨒌」はに同じ。蓮成院本はこれと同じ掲出字を二字併記。
西念寺本は掲出字「延」が観智院本と相違するが、注文「𨒌並征字」は観智院本に同じ。西念寺本の本文が文意よく通じる。
西念寺本は更に掲出字「𨒙」(𨒙 u28499 )注文「亠石」を記載する。
4匚 #
K0106251 匚 #
(本文) 方音 受物之器 《玉ー》云甫玉切
(注)
1 方音
広韻「府良切」(平声陽韻、方)。観智院本は掲出字に朱の庵点(〽)あり。高山寺本・蓮成院本・西念寺本は庵点なし。高山寺本は前行に「第四匚篇」あり。観智院本は朱「四」、蓮成院本は小字「四」を小字右寄せ、西念寺本は「四」あり。観智院本・蓮成院本・西念寺本「方亠」、高山寺本「方(L)音」。
2 受物之器
説文「受物之器」。
3 《玉ー》云甫玉切
観智院本「《玉ー》云甫玉切」あり、蓮成院本・高山寺本・西念寺本なし。観智院本の増補。宋本玉篇「甫王切」とあり「玉」は「王」を誤写(小林恭治「西念寺本に見えない漢字注記」例17)。
K0106252 匠 #
(本文) 音上 呉音昌(R) ⿺辶⿱一斤俗 ツヒニ〈是歟〉 タクミ(LLL)
(注)
1 音上
広韻「疾亮切」(去声漾韻)。「上」は「時掌切」(上声養韻)、「時亮切」(去声漾韻、尚)。観智院本・蓮成院本・西念寺本「亠上」、高山寺本「音上(R)」。
2 呉音昌(R)
高山寺本「呉ー唱(R)」、蓮成院本・西念寺本「呉ー唱」。石山寺本大般若経字抄「匠」(⿺辶⿱一斤)に「音唱」「タクミ」(9オ)、「音唱」(21オ)。
3 ⿺辶⿱一斤俗
⿺辶⿱一斤は𮞆 (u2e786)。干禄字書「⿺辶⿱一斤匠 上俗下正」。
4 ツヒニ〈是歟〉
観智院本は「是歟」をやや小さく書写。「遂」のくずし字に由来する訓か、不審。
5 タクミ(LLL)
道円本和名抄「工匠 四声字苑云工[功反和名太久美]匠[上反]巧人也」(巻2人倫部)。大般若経字抄「匠」に「タクミ」(9オ)。観智院本・高山寺本「タクミ(LLL)」、蓮成院本「タクミ」、西念寺本「タクミ(LLL)」(存疑)。
K0106253 匧 #
(本文) 苦俠(S)反 篋俗
(注)
1 苦俠(S)反
広韻「苦協切」(入声怗韻、愜)。観智院本・高山寺本「俠」に入声点あり、蓮成院本・西念寺本に声点なし。
2 篋俗
蓮成院本「」を掲出字と同じ大きさに書写。宋本玉篇「匧 或作篋」。新撰字鏡「匧 篋字」、龍龕手鏡巻1匚部に「⿷匚夹 俗通;匧 正。苦叶反。函ー也。二。」。
K0106254 匧 #
(本文) 正
(注)
1 正
観智院本・蓮成院本・高山寺本「正」あり、西念寺本なし。西念寺本の脱漏(小林恭治「西念寺本に見えない漢字注記」例18)。
K0106261 匜 #
(本文) 移(L)音 又戈(弋)尒反 ⿺乚㐌⿺辶㐌
(注)
1 移(L)音
広韻「弋支切」(平声支韻喩四母、移)、「移爾切」(上声紙韻喩四母、酏)。前者に対応。観智院本「移(L)亠」、高山寺本「移(L)音」、蓮成院本「移亠」。西念寺本「移」の右行「一」との間に「|」あり、元来「移亠」であったか、「移(L)亠」の可能性もあり。
2 又戈(弋)尒反
広韻「弋支切」(平声支韻喩四母、移)、「移爾切」(上声紙韻喩四母、酏)。「爾(尒)」は「兒氏切」(上声紙韻日母)。観智院本・西念寺本「戈尒反」、高山寺本「弋尓反」、蓮成院本「弋尒反」。
3 ⿺乚㐌⿺辶㐌
K0106262 𠤷 #
(本文) ハンサフ(LLL"L)
(注)
1 ハンサフ(LLL"L)
K0106263 匡 #
(本文) 俗 去王(L)反 タヽス-シ(LH"H-@) マサシ タクマシ オツ カシコマル スヽメリ マウス スケ ヤム 呉音况
(注)
1 俗
2 去王(L)反
広韻「去王切」(平声陽韻)、「渠放切」(去声漾韻、狂)。
3 タヽス-シ(LH"H-@)
中村文選8頁(序)「匡タヽスニ「正也」」。
4 マサシ
訓点語彙集成「匡」に「ウルハシ/タスク/タダシ/タダシウス/タダシクス/タダス」の訓あり。
5 タクマシ
「逞」の訓に関連するか。
6 オツ
7 カシコマル
訓点語彙集成「屈」に「カシコマル」の訓あり、これに関連するか。
8 スヽメリ
9 マウス
10 スケ
正宗索引「スケ」と「ヤム」に分けて採録。西端幸雄「スチヤム」と判読し高山寺本「スケ ヤム」、蓮成院本「カケヤム」とする(西端誤写諸例39頁①誤字313)。今、正宗に従う。
11 ヤム
12 呉音况
石山寺本大般若経字抄「匡」(⿺辶⿱一王)に「音况」「タヽス」(25オ)。
K0106271 匡/⿷匚主 #
(本文) 二正 筺或
(注)
1 二正
2 筺或
K0106272 ⿸厂王 #
(本文) (無)
(注)
1 (無)
宋・太祖、趙匡胤の諱による缺筆。
K0106273 高/匡 #
(本文) マカフラタカ(LHH"HHH)
(注)
1 マカフラタカ(LHH"HHH)
日国「まかぶら-だか(眶高)」に「まかぶらの高いこと。眉のあたりが突起していること」の義とし、高山寺本「マカブラダカ」、保元物語を挙例。同じく日国「こう-きょう(高匡)」に「(「匡」は目のふちの意)目が落ちくぼんで、そのまわりが骨ばっていること」と説き、三教指帰下「折頞。高匡。頤。隅目。噅口。無鬚。似孔雀貝」を挙例。
K0106274 匴 #
(本文) 蘇管(H)反 竹莒
(注)
1 蘇管(H)反
広韻「蘇管切」(上声緩韻、算)。
2 竹莒
説文「渌米籔也」。万象名義「盝也、米藪也」。宋本玉篇「𣿍米藪」。広韻「器也冠箱也」。
K0106281 㔯 #
(本文) 全音 炊䉛
(注)
1 全音
原文「⿱𠆢乇音」。広韻「似宣切」(平声仙韻邪母、旋)。「全」は「疾縁切」(平声仙韻從母)。
2 炊䉛
万象名義「𠤰 似治反。漉米。䉛。上文。」。説文「籔」に「炊䉛也」とあり、炊きもののざるの意。
K0106282 㔶 #
(本文) 㯯⿳⺮夅貝二或 真音 小桮
(注)
1 㯯𥴶二或
「㯯」は広韻「格木説文同上」(前項は㔶)(去声送韻、貢:古送切)。「𥴶」は「都感切」(上声感韻、黕)。
2 真音
広韻「古禫切」(上声感韻、感)、「古送切」(去声送韻、貢)。観智院本「真音」は「貢音」の誤写。
3 小桮
説文「小桮也」(桮は杯に同じ)。広韻「小杯名」(去声送韻、貢)。万象名義「小盃也」。小さいさかずきの意。
K0106283 匪 #
(本文) 甫尾反 アラス マフ スケ ナカシ ナシ カノ ユルナリ ナイカシロ ワカツ 和ヒ 呉彼
(注)
1 甫尾反
広韻「府尾切」(上声尾韻)。
2 アラス
万象名義「非也」、大般若経字抄「不也」。
3 マフ
正宗索引「マフ」に「高・西マコト字鏡集にもあり」。草川昇「類聚名義抄和訓小考」45頁例30に考証あり。
4 スケ
「ケ」は「チ」のごとく書写。正宗索引「スケナカシ」で採録。草川和訓集成「スケ」と「ナカレ」で採録、「ナカレ」は観智院本空白、「ナカレ」に蓮成院本・高山寺本・西念寺本ありとする。草川昇は「「スケナカシ」を一訓として扱っているのは不自然で、「スケ」「ナカシ」ではなく、「ナカレ」の誤りであろう」とする(草川昇「類聚名義抄和訓小考」45頁例30)。白川字通は「スヂナガシ」で採録。中村文選46頁(東都)「匪ス」。小林恭治「観智院本にないカタカナ注記(6)」例54と55では観智院本「スチナカシ」、西念寺本「爪ケ ナカレ タケヽツワオ」、高山寺本「スケ ナカレ タケ\ツハモノ」、蓮成院本「ナカレ(ナは小字) タケ\ツハモノ(右に牜)」とし、諸説について藤堂説「スチナカシ」、正宗説「スケナカシ」、長島説「スケ」「ナカシ」、草川説「スケ」「ナカレ」と整理。本来、形容詞「素気無(すげな)し」の活用形「スケナカレ」であったか推測する。「タケ\ツハモノ」は観智院本の脱漏。
5 ナカシ
「ケ」は「チ」のごとく書写。正宗索引「スケナカシ」で採録。草川和訓集成「スケ」と「ナカレ」で採録、「ナカレ」は観智院本空白、「ナカレ」に蓮成院本・高山寺本・西念寺本ありとする。白川字通は「スヂナガシ」で採録。
6 ナシ
西本には高本や観本に見えない「タケキツハ物」という訓が見える(岡田希雄『類聚名義抄の研究』249頁、195頁)。草川和訓集成「ナシ」で採録。池田按:西念寺本「タケキツハ物ナシ」、蓮成院本「タケキツハ物ナシ(モノを見消して牜に訂す)、高山寺本「タケキツハモノナシ」あり。
7 カノ
正宗索引補正「セノか」「「セ」虫ばみにて不明」とする。草川和訓集成「カノ」で採録し、蓮成院本・高山寺本・西念寺本も「カノ」とする。白川字通に「彼と通じ指示詞に用いる」とし「かの、かれ」の義をあげる。万象名義「彼也」。
8 ユルナリ
9 ナイカシロ
10 ワカツ
原文「禾カツ」。万象名義「分也」。
11 和ヒ
高山寺本「音ヒ(R)」(Hとも見える)。
12 呉彼
石山寺本大般若経字抄「匪」に「音彼」「不也」(17ウ)。